太っていても精索静脈瘤手術は精液所見の改善と妊娠率の向上に有効である!
精索静脈瘤の手術は、精子をつくる力(造精機能)が低いときに、もっとも有効な治療法です。一方、肥満は血液中のテストステロン(男性ホルモン)を低下させ、エストラジオール(女性ホルモン)を上昇させることにより、男性不妊の一因になるという報告があります。
今回の話題は、世界で最も権威のある泌尿器科の学術雑誌 Journal of Urology (2012年1月号)に掲載された、肥満男性でも標準体型の男性の場合と同様に,精索静脈瘤手術が精液所見を改善させ、妊娠率を向上させるという研究報告を取り上げます。
この論文では、精索静脈瘤手術を受けた143人の患者さんを、BMI(Body Mass Index; 肥満指数[肥満や痩せを知る国際的指標]。 BMI=体重(kg) ÷ 身長 (m) 2 で計算されます。)により、標準体型、肥満度1(軽度肥満)、肥満度2以上(中等度以上の肥満)の3つのグループに分け、精索静脈瘤手術の治療効果を比較しています。
3つのグループの内訳は、
グループ1は標準体型(BMI:18.5-24.9)の男性で38人、
グループ2は肥満度1(BMI: 25-29.9)の軽度肥満で59人、
グループ3は肥満度2以上(BMI: 30以上)の中等度以上の肥満で46人でした。
3つのグループの男性の平均年齢、パートナーの平均年齢、術前の精液検査での平均総運動精子数(精液中の前進している精子の総数)、FSH(造精機能障害の指標となるホルモン)の平均値、血清テストステロン(男性ホルモン)値は3つのグループ間で統計学的な差はありませんでした。
気になる肥満度の違う男性3グループでの治療成績の比較結果ですが、術後に運動精子数が150%以上に上昇した人,つまり精液検査の結果が良くなった人は、それぞれ
標準体型のグループ1で71.1%、
軽度肥満のグループ2では61.0%、
中等度以上肥満のグループ3で58.7%でした。
手術後の妊娠率は、それぞれ
標準体型グループで43.8%、
軽度肥満グループでは42.5%、
中等度以上肥満のグループで46.3%でした。
標準体型の男性と、肥満の男性(肥満度1、肥満度2以上)との間で、精索静脈瘤手術後の精液所見と妊娠率には統計学的にも差は認められず、BMIの高い肥満男性でも、精液所見と妊娠率の改善を目的とした精索静脈瘤手術は、標準体型の男性の場合と同様に有効であったという結果です。
肥満の男性に精索静脈瘤が見つかりやすいかどうかについては、肥満の男性は、標準体型の方と比較して精索静脈瘤を合併する頻度は低いという報告が、同じくJournal of Urology( 2006年11月号)に掲載されています。肥満の男性が精索静脈瘤を合併する頻度が低い理由としては、お腹のなかの脂肪が梱包に使うプチプチシートのような働きをして、腎静脈の圧迫を抑えているため精索静脈瘤ができにくいということ、あるいは、太っていると診察で精索静脈瘤を触れにくいということが可能性として考えられています。しかし、この報告の中での検討では、小さい精索静脈瘤だけでなく、大きい精索静脈瘤も肥満患者では合併が少なかったと述べられており、診断が難しいということよりも、脂肪組織が静脈の圧迫を抑え、精索静脈瘤を少なくしているのだろうと結論づけています。
精索静脈瘤はやせた男性に多いということは昔からよく知られています。肥満男性では精索静脈瘤がみつかる頻度が標準体型の人と比較して低いといっても、不妊検査を希望された標準体型男性の42%に精索静脈瘤がみつかったのに対して、肥満男性においても、肥満の程度により、13%~35%で精索静脈瘤がみつかり、肥満男性でも精索静脈瘤が決して少ないわけではないようです。
喫煙やマリワナなどのドラッグと同様に、肥満が精液所見を悪化させ、男性不妊の原因になっているというのは、ほぼ間違いないようです。ですから,お子さんを望んでおられるなら、奥様だけでなく、ご主人も適切な体重のコントロールが必要です。
精液所見が悪くて、精索静脈瘤があるということであれば、やせていようが,太っていようが精索静脈瘤手術を受けるべきです。肥満があり、皮下脂肪が厚い患者さんでは、精索静脈瘤手術の難易度が上がりますが、熟練した泌尿器科が執刀すれば安全かつ確実に手術できます。また顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術の術式がメリットとなります。ダイエットには時間がかかるでしょうから、精索静脈瘤手術が近道になるかもしれません。
*当院の顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術と手術費用(健康保険3割負担)についてはこちらをご参照ください